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首から下が麻痺したチンパンジーのレオ。タッチスクリーンを使ったリハビリで再び歩けるように。

動けなくなった動物にも安楽死ではない選択肢が。

2016年7月5日、東京 | ハイデルベルク | ニューヨーク

© Primate Research Institute, Kyoto University

脊髄の病気で首から下が麻痺してしまったオスのチンパンジー「レオ」。リハビリによって、もう一度自力で歩けるようになった彼のケースを通して、障害を負った動物へのリハビリの持つ可能性を報告した論文が、日本モンキーセンターの国際学術雑誌、プリマーテス(Primates:シュプリンガー発行)に掲載されました(筆頭著者は京都大学の櫻庭陽子氏)。

京都大学霊長類研究所では、チンパンジーの認知研究のため、日頃からコンピューターのタッチスクリーンを使用した課題を導入しています。レオの首から下が麻痺してしまった時、研究所のスタッフは、この技術をさらに進め、彼が自発的に歩くことができるよう回復させることを試みました。これは、麻痺したチンパンジーのリハビリに専用プログラムを実施した初めてのケースです。

2006年、24歳のレオは脊髄に炎症が起こり、首から下が突然麻痺。最初の10カ月間、寝たきりになり、首から下が動かなくなりました。献身的なスタッフの介護により彼は少しずつ回復し、やがて座ることができるようになり、つり下げたロープを使って背筋をぴんと伸ばし長時間座ることができるまでになりました。41カ月にわたる集中的な理学療法が続いた後、彼は自分の腕だけを使って起き上がれるようになったのです。

レオが、霊長類研究所で暮らす他の12頭の仲間たちと一緒の生活に戻るのを助けるため、研究所のスタッフは、彼をもう一度自力で歩かせようと取り組みました。レオは若い時に、コンピューターを使った認知課題を経験していて、課題を解くと、ご褒美として食べ物を受け取るというやり方に慣れていたため、これをリハビリに導入してみようと考えたのです。

コンピューターのタッチパネルを部屋に設置し、彼に認知課題を与える。これは、簡単なことではなく、少し怖がるレオに協力してもらうまでに、研究チームは試行錯誤を重ね、7回にもわたる設定の変更を行いました。彼が課題を解くと、部屋の反対側に置かれたトレイにご褒美の食べ物が出る。レオは、食べ物の場所まで少なくとも2メートル動かなければならない。そして、再びタッチパネルの場所まで戻り、新たな課題を始めるために、また2メートル歩く。

最初はロープや手すりの助けを借りて体を支えていましたが、だんだんと真っすぐに座った姿勢で移動をするようになりました。ちょうど、ペンギンが歩く時に、左右交互に足を出す様子に似ています。彼はこのリハビリセッションに自発的に取り組み、ついに2時間のセッションで500メートルも歩くようになったのです。

「認知課題は、身体障害をもつチンパンジーのリハビリと福祉の向上に役立つことを示すことができました。飼育下で傷ついた動物にとって安楽死以外の選択肢があることは重要だと思います。」櫻庭氏はそう話します。

こうしたリハビリテーションプログラムのデザインには、それぞれの動物の個性と身体的な状態を考慮した上での調整が必要です、と彼女はさらに指摘しています。

こちらから、レオがリハビリテーション課題を実施しているビデオをご覧になれます。

論文はこちら

Reference: Sakuraba Y, Tomonaga M, Hayashi M (2016). A new method of walking rehabilitation using cognitive tasks in an adult chimpanzee (Pan troglodytes) with a disability: a case study, Primates.

編集長によるEditorialはこちら

Matsuzawa T (2016) Euthanasia is not an option: 10 years’ care of a chimpanzee with acute tetraparesis, Primates.

日本モンキーセンター

学術雑誌プリマーテス(Primates)

京都大学霊長類研究所チンパンジー・アイ

弊社英文プレスリリースはこちら

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